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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)125号 判決

原告 中増義文

被告 国

訴訟代理人 大村須賀男 外二名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

一、被告は原告に対し、別紙物件目録(二)記載の建物(以下本件建物という)、及び、別紙同目録(三)の記載の飲用水供給装置、及び別紙同目録(四)記載の電気供給装置を各収去して、別紙同目録(一)の記載の土地(以下本件土地という)を明渡せ。

二、被告は原告に対し、(1) 金九万二、五七六円及びこれに対する昭和三九年一月一日より支払済に至るまで年五分の割合による金員、(2) 金二四万九、二一六円及びこれに対する昭和四〇年一月一日より、支払済に至るまで年五分の割合による金員、(3) 金三一万四、三四〇円及びこれに対する昭和四一年一月一日より支払済に至るまで年五分の割合による金員、(4) 金三五万二、四四〇円及びこれに対する昭和四二年一月一日より支払済に至るまで年五分の割合による金員、(5) 金四九万三、三八〇円及びこれに対する昭和四三年一月一日より支払済に至るまで年五分の割合による金員、(6) 六三万二、三七六円及びこれに対する昭和四四年一月一日より支払済に至るまで年五分の割合による金員、(7) 並びに昭和四四年一月一日より右明渡済に至るまで一ケ月五万二、六九八円の割合による金員及びこれに対する各月分ともその翌月一日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに、

一、二項につき仮執行の宣言、

(被告)

本案前の申立

本件請求趣旨一項の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

本案の申立、

主文同旨

第二、当事者の陳述、

(原告の請求原因)

一、建物収去土地明渡請求について。

(一) 原告は別紙物件目録(一)記載の本件土地を含む、大阪市東淀川区中島町八丁目一五六番地の土地を所有している。

(二) 本件土地上に各昭和三八年五月一日より訴外崔将権は本件建物を所有し、かつ別紙目録(三)記載の飲用水供給設備のうち止水栓量水器を除く部分を所有し、右建物に居住し、訴外大阪市水道局は右止水栓量水器を、訴外関西電力株式会社(以下関電と略称する)は別紙目録(四)記載の電気供給設備を所有し、右三各は本件土地を共同して占有しているが、原告はこれに対し承諾したことがない。

(三) 被告国の行政機関たる厚生省は水道法より、同通産省は、旧公益事業令、現電気事業法に基き、それぞれ公権力を賦与せられ、水道事業者たる訴外大阪市、電気事業者たる関電をして違法に給水あるいは送電の設備を設け、給水あるいは送電をなさしめて、右土地の不法占有者たる崔将権に生活条件を具備せしめ、同人をして不法占有をなさしめている。

(四) よつて原告は本件土地所有権に基づき、被告国に対し請求趣旨一項の請求をする。

二、損害金請求について。

(一) 被告国は前項(三)記載のとおり本件土地上の違反物件除却、原状回復命令その他適切な行政監督をなすべき義務があるのに、これをなさないことにより、違法に公権力を行使して、前記三名の者に対し、本件土地の不法占有を継続せしめ、これがため原告に後記(三)の損害をこうむらしめている。

(二) 原告は本件地上建物の所有者に対し建物収去土地明渡等訴訟を提起する外、大阪市関電を共同被告として給水送電の各装置収去、原状回復、土地明渡請求訴訟(大阪地裁昭和四一年(ワ)第六七一八号)を提起し、他方大阪市に対し、不法占拠者に対する給水廃止請求訴訟(大阪地裁昭和四〇年(ワ)第三四四八号)を提起した。

然るに、担当裁判官、山内敏彦、高橋欣一、高升五十雄は、水道法一五条により水道の需要者が土地の不法占拠者であつても、被告大阪市は給水義務を負担すると違法な解釈を下し、憲法二九条により財産権の保証をうけている原告の本件土地所有権の侵害を容認し、本件土地に施行されている都市計画法同施行令、土地区画整理法、建築基準法の禁止法令を無視する判決をして原告を敗訴せしめ、その控訴審大阪高等裁判所昭和四二年(ネ)第三七六号事件において、担当裁判官、井関照夫、藪田康雄、賀集昭の三名は原判決を理由ありとして、同様不法な解釈をして控訴を棄却した。そしてこのような裁判は違法に公権力を行使するものでこれがために大阪市に不法占有を継続せしめ、これがため原告に後記(三)の損害を与えたものであるから、被告国はその使用者として民法七一五条又は国家賠償法に基き責任を負うべきである。

(三) 原告に生じた損害は次のとおりである。

(1)  占有開始の昭和三八年五月一日より同年末までの地代相当損害金九万二、五七六円及びこれに対する昭和三九年一月一日より支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金、

(2)  昭和三九年度、地代相当損害金二四万九、二一六円及びこれに対する昭和四〇年一月一日より支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金、

(3)  昭和四〇年度地代相当損害金三一万四、三四〇円及びこれに対する昭和四一年一月一日より支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金、

(4)  昭和四一年度地代相当損害金三五万二、四四〇円及びこれに対する昭和四二年一月一日より支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金、

(5)  昭和四二年度地代相当損害金四九万三、三八〇円及びこれに対する昭和四三年一月一日より支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金、

(6)  昭和四三年度地代相当損害金六三万二、三七六円及びこれに対する昭和四四年一月一日より支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金、

(7)  昭和四四年一月一日より明渡済に至るまでの地代相当損害金、一ケ月金五万二、六九八円及び各年度分につき、翌年一月一日より支払済に至るまでこれに対する年五分の割合による遅延損害金、

(被告の答弁)

一、本案前

被告国は本件建物並びに飲用水及び電気供給設備について所有権その他何らの権限を有せず、又、本件土地を占有していないから被告国に対し、本件物件の収去及び本件土地の明渡を求めることは、正当なる当事者を誤るもので却下を免れない。

二、本案

請求原因一の(一)の事実は認める。同(二)の事実中飲用水供給設備、及び、電気供給設備の所有関係が原告主張のとおりであることは認めるがその配置関係は不知、その余の事実は否認する。同(三)の事実中、訴外崔将権に対し、大阪市が給水していること、関電が送電していることは認めるがその余は否認する。

請求原因二の事実中、原告が訴外大阪市に対し訴を提起したこと、原告が敗訴したことは認めるが、その余の事実は否認する。訴外大阪市は、本件土地を占有しておらず、又、同市の居住者に対する給水は、水道法一五条の給水義務に基く正当行為でかかる給水と、原告主張の居住者らの土地不法占有との間には、相当因果関係はない。訴外関西電力の電気供給も同様である。

第三、証拠〈省略〉

理由

(本案前の被告の主張について)

被告は請求趣旨一項の訴えについて被告適格を有しないと主張する。けれども給付の訴えでは、原告からその主張の自己の給付請求権に対応する給付義務ありと主張される者が被告適格をもつのが原則で、本件において、被告は、原告より右給付義務者として、指名されていること明白であるから、当然被告適格を有するものといわねばならず、被告のこの点についての主張は採用できない。

(本案)

一、建物等収去土地明渡について。

請求原因(一)の事実、及び(二)の事実中、訴外崔将権が本件建物及び別紙物件目録(三)記載の飲用水供給設備のうち止水栓、量水器を除く部分を所有し、右建物に居住していること、訴外大阪市水道局が右止水栓、量水器を、訴外関電が別紙物件目録(四)記載の電気供給設備を各所有していることは当事者間に争いがない。

そして原告は、被告国の行政機関たる厚生省、通産省が、水道法もしくは、旧公益事業令、現電気事業法により公権力を賦与せられ、違法に訴外大阪市、同関電として給水もしくは送電設備を設け、給水、送電をなさしめて、訴外崔将権に居住の生活条件を具備せしめ、同人をして不法占有を継続せしめていると主張するが右主張だけでは、被告国が本件土地を占有しているとの主張があるものとは到底解せられず、また右占有継続をさせていると主張する右前提事実がかりにあつたとしても、右主張事実から被告国が本件土地を間接占有又は共同占有しているとは社会観念上到底認められない。

また、原告主張の収去請求の目的物が被告国の所有に属しないことは主張自体明らかである。地上物件を収去し土地を明渡す義務がある者は、これら収去目的物の所有者であり、土地の占有者であることを要するところ、被告国はかかる要件を具備しないから、被告国に対する本件土地明渡請求は理由がない。

二、損害金請求について。

(一)  原告は被告国が違反物件除却原状回復命令その他適切な行政監督をなさず、公権力の違法な行使により本件土地の不法占有を継続せしめ、これがため、原告に地代相当の損害を、生ぜしめていると主張するので判断するに、訴外大阪市、同関電が本件土地上に水道、電気各供給設備を所有することに対し、被告国の行政庁が原告主張のように、地上物件の除却原状回復命令を出し又は同様の行政監督をなすべき法的根拠はこれを見出しえず、かりにこれをなすべきであつたにせよ、右命令、監督をなさなかつたことと、訴外崔の本件土地の占有継続による損害発生との間には法律上相当因果関係を認めることはできず原告の主張は理由がない。

(二)  原告は前記大阪地裁昭和四〇年(ワ)第三四四八号事件、大阪高裁昭和四二年(ネ)第三七六号事件において、担当裁判官らが違法な解釈を下すことによつて違法に職務を執行し、原告を敗訴させ、訴外大阪市をして本件土地の不法占有を継続せしめ、憲法二九条によつて財産権の保証をうけている原告の土地所有権を侵害することにより地代相当の損害を生ぜしめていると主張するので判断する。

原告が訴外大阪市を相手方とし不法占拠者に対する給水廃止請求訴訟(大阪地裁昭和四〇年(ワ)第三四四八号)を提起したこと、その担当裁判官山内敏彦、高橋欣一、高升五十雄が水道法一五条により、水道の需要者が土地の不法占拠者であつても、給水義務を負担するとの解釈で原告を敗訴せしめたこと、その控訴審大阪高等裁判所昭和四二年(ネ)第三七六号事件において、担当裁判官井関照夫、藪田康雄、賀集昭の三名が原判決を相当として控訴を棄却したことは当事者間に争いがない。

そこで右各判決の当否はさておき、右各判決と地代相当の損害発生との間の因果関係の存在は、訴外大阪市が本件土地を占有していることを前提としているが、訴外大阪市が飲用水供給設備を所有することによつて、本件土地を占有しているとは社会観念上認められず従つて右各判決と原告主張の損害発生との間には、主張自体因果関係を認めることはできない。

よつて原告の右主張も理由がない。

三、以上のとおり原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 増田幸次郎 安間喜夫 小林登美子)

別紙目録及び図面〈省略〉

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